布団に入っても、なかなか寝つけない。夜中に何度も目が覚める。朝早くに目が覚めて、そのまま眠れない。こうした不眠に悩む人は、日本の成人の約5人に1人といわれています。
では、眠れない原因は何なのでしょうか。この記事では、医学的に不眠がどのように分けられているのか、それぞれどれくらいの割合なのかを整理したうえで、睡眠の専門医が考える「不眠の根っこにあるもの」と、治療の第一歩をお伝えします。
はじめに
この記事は、睡眠アプリ「Sleepa」を開発している株式会社Medisenseの共同設立者で、エンジニアのMasaが書いています。内容は、Medisenseの代表で睡眠を専門とする医師、木村 紀久(神経内科専門医・日本睡眠学会認定医)から聞いた話をもとにしています。木村の経歴は睡眠の専門医が、なぜ睡眠アプリを作ったのかで紹介しています。
不眠に悩む人は、どれくらいいるのか
日本の成人約3,000人を対象にした全国調査では、21.4%が、この1か月に不眠があったと答えました。内訳は、「寝つきが悪い」が8.3%、「夜中に目が覚める」が15.0%、「朝早くに目が覚める」が8.0%です(重なっている人もいます)。
ただし、眠れない夜があるだけでは、病気としての「不眠症」とは限りません。国際的な診断の基準では、眠る時間や環境は十分にあるのに眠れない状態が、週に3回以上、3か月以上続き、日中の眠気やだるさ、集中力の低下、気分の落ち込みなどの不調が出ている場合を「慢性不眠障害」と呼びます。この基準に当てはまる人は、海外の研究では成人の6〜10%ほどです。
医学的には、不眠はどう分けられているか
今の国際的な診断の基準(睡眠障害国際分類 第3版、2014年)では、不眠症は続いている期間によって「慢性」と「短期」に分けるだけになっています。以前の版(第2版、2005年)では、原因によって細かく分けていました。眠れない原因を考えるうえでは今も役に立つので、主なものを紹介します。
- 適応障害性不眠(一時的な不眠):仕事や人間関係の悩み、引っ越し、家族の病気など、はっきりしたストレスをきっかけに始まる不眠です。多くは、ストレスがなくなると治まります。
- 精神生理性不眠:眠れない夜が続くうちに、「今夜も眠れなかったらどうしよう」と眠ること自体を心配するようになり、布団に入ると緊張して目がさえてしまう不眠です。きっかけのストレスがなくなっても続きます。
- 逆説性不眠(睡眠誤認):実際にはある程度眠れているのに、本人は「ほとんど眠れていない」と感じている状態です。
- 心の病気に伴う不眠:うつ病や不安障害などの症状のひとつとして現れる不眠です。
- 体の病気に伴う不眠:痛みやかゆみ、咳、夜中のトイレ、更年期の症状などで眠れなくなる不眠です。
- 薬や物質による不眠:一部の薬や、カフェイン、アルコール、ニコチンなどが原因になる不眠です。
- 生活習慣による不眠:長すぎる昼寝、寝る前のスマートフォン、毎日ばらばらな就寝時刻など、生活の習慣が眠りを妨げている不眠です(「不適切な睡眠衛生」と呼ばれます)。
- 特発性不眠:子どもの頃から続く、はっきりした原因の分からない不眠です。まれなものです。
このほか、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、体内時計がずれる病気(概日リズム睡眠・覚醒障害)など、別の睡眠の病気が「眠れない」という悩みとして現れることもあります。
それぞれの割合は?
どの種類がどれくらい多いかは、調べた場所や使った基準によって違います。よく知られているのは、アメリカの5つの睡眠の専門施設で、不眠を訴えて受診した216人を睡眠の専門医が診断した研究です(1994年)。結果は次のとおりでした。
- 主な診断で最も多かったのは、うつ病などの心の不調に関連した不眠(44%)。次が、ほかの病気によらない不眠(20%)で、精神生理性不眠などがここに入ります。
- 主な診断とそれ以外の診断を合わせると、4人に3人以上(75%以上)が、心の状態に関連した不眠と診断されました。
- 世界保健機関(WHO)の分類で分けると、「情緒的な原因による不眠」が62%で、「体の病気など、器質的な原因による不眠」は9%でした。
睡眠の専門施設を受診した人を調べたものなので、不眠に悩む人全体の割合とは違います。それでも、体の病気よりも、心の状態が関わる不眠のほうがずっと多いことが分かります。
なお、睡眠誤認は、確かめるのに精密な検査が必要なため、問診による診断の数には表れにくい種類です。一方で、不眠に悩む人の多くが、実際よりも睡眠を短く感じる傾向があることは、数多くの研究で確かめられています。木村は、不眠を訴えて受診する人の半分ほどが睡眠誤認だと考えています(「睡眠誤認」とはなにか)。
専門医の見方:不眠の根っこにあるのは「不安」
木村は、不眠の多くは心理的なもので、その根本的な原因は「不安」だと考えています。
ここでいう不安は、不安障害のような病気だけを指すのではありません。仕事や人間関係、家族、健康、お金、将来のこと。そして、「眠れないこと」そのものへの不安もあります。不安の中身は人それぞれですが、それが眠りを妨げるしくみには共通点があります。
不安は、どのように眠りを妨げるのか
- 心と体が「警戒モード」になる:不安を感じると、心拍が上がり、筋肉がこわばり、頭がさえます。危険に備えるための自然な反応ですが、眠るためには、この状態が静まる必要があります。不眠に悩む人は、夜も含めて心と体が高ぶった状態(過覚醒)にあることが、研究で示されています。
- 「眠れないこと」が新たな不安になる:何夜か眠れないと、「今夜も眠れなかったらどうしよう」「明日の仕事に響く」と心配になります。その心配がさらに目をさえさせ、布団や寝室が「眠れない場所」として結びついてしまいます。きっかけのストレスが去ったあとも不眠が続くのは、多くの場合、この悪循環のためです。
- 眠りを短く感じさせる:眠れているかどうかが気になっているほど、夜中の短い目覚めに気づきやすく、眠っていた時間まで「起きていた」と感じやすくなります。睡眠誤認の背景にも、こうした心配があると考えられています。
- 心の病気の症状として現れる:うつ病や不安障害では、不眠は最もよく見られる症状のひとつです。
きっかけが何であっても、不眠を長引かせているのは、多くの場合「不安」です。睡眠薬は眠りを助けてくれますが、不安そのものを取り除くわけではありません。睡眠薬だけでは根本的な解決にならないことがあるのは、このためです(睡眠薬を飲む前に確かめておきたいこと)。
では、治療は何から始めればよいのでしょうか。木村は、大切なことが2つあると考えています。
治療の第一歩①:自分の睡眠の状態を詳しく知る
1つめは、自分の睡眠が実際にどうなっているのかを、詳しく知ることです。
ここまで見てきたように、不眠にはいくつもの種類があり、種類によって必要な治療は違います。実際に睡眠が足りていないのか、眠れているのに眠れていないと感じているのか、睡眠時無呼吸症候群のような別の病気が隠れているのか。それを見分けるには、「眠れない」という感覚だけでなく、実際の睡眠の様子が手がかりになります。
そして、自分の睡眠を正しく知ることは、それ自体が不安を和らげることにもつながります。「ほとんど眠れていない」と思っていたのに、記録を見ると実はある程度眠れていた。そう分かるだけで、「眠れないこと」への心配が軽くなる人は少なくありません。
米国内科学会(2016年)や欧州睡眠学会(2017年、2023年に改訂)の診療ガイドラインは、慢性の不眠の最初の治療として、薬よりも先に「不眠の認知行動療法」をすすめています。その出発点も、毎日の睡眠を睡眠日誌に記録して、自分の睡眠を詳しく知ることです。
記録したいのは、毎朝「昨夜どう眠れたと感じたか」を書き留める睡眠日誌と、Apple Watchなどのウェアラブル端末が記録した実際の睡眠の2つです。記録のしかたは自分の睡眠を1週間で確かめる方法で紹介しています。
ただし、記録の数字を気にしすぎると、それ自体が新しい不安のもとになることもあります。記録は、自分を責めたり心配したりするためのものではなく、自分を知り、医師と話し合うための材料です。
治療の第一歩②:自分の中にある不安の原因に向き合う
2つめは、自分の中にある不安の原因に向き合うことです。木村は、眠りだけを何とかしようとするのではなく、その人が抱えている不安に目を向けることが、不眠の治療には欠かせないと考えています。
向き合い方は、人によってさまざまです。たとえば、次のような方法があります。
- 何が不安なのかを言葉にする:頭の中で考えているだけだと、不安は実際よりも大きく感じられます。紙に書き出してみると、自分が何を心配しているのかが見えてきます。布団の中で考えごとが止まらない人は、夕方などに15分ほど時間を取り、心配ごとと、次にできることを書き出しておく方法もあります。
- 「眠り」についての思い込みを見直す:「8時間は眠らないといけない」「一晩眠れないと、次の日は何もできない」といった考えが、不安を強めていることがあります。必要な睡眠時間は人によって違い、実際に眠れる時間も年齢とともに短くなります。一晩眠れなくても、次の日をなんとか過ごせることがほとんどです。
- 布団と不安の結びつきをほどく:眠れないまま布団の中で過ごす時間が長いと、布団と不安が結びついてしまいます。不眠の認知行動療法では、眠くなってから布団に入る、眠れないときはいったん布団を出て落ち着いて過ごす、といった方法で、この結びつきをほどいていきます。
- ひとりで抱え込まない:不安の原因が、仕事や家庭のことなど、すぐには解決できないものであることも多いでしょう。信頼できる人に話すこと、医師やカウンセラーなどの専門家に相談することも、不安に向き合う大切な方法です。不眠の認知行動療法は、睡眠外来や心療内科などで受けられますが、行っている医療機関はまだ多くないため、受診の前に問い合わせると安心です。
早めに医療機関に相談したいとき
次のような場合は、不安が原因とは限りません。早めに医療機関に相談してください。
- 大きないびきや、眠っている間に呼吸が止まっていることを指摘された
- 夕方から夜にかけて、脚がむずむずしてじっとしていられない
- 気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態が2週間以上続いている
- 日中の強い眠気で、仕事や運転に支障が出ている
- 眠れない状態が続き、日中の生活に影響が出ている
つらい気持ちが強いときも、ひとりで抱えずに、早めに医療機関に相談してください。そのとき、睡眠の記録があれば、医師と話すための材料になります。
Sleepaでできること
私たちの睡眠アプリ「Sleepa」は、治療の第一歩である「自分の睡眠を詳しく知ること」を、毎日の生活の中でできるように作りました。

- Apple Watchの記録をもとに、毎晩の睡眠を、覚醒・レム睡眠・コア睡眠・ディープ睡眠のグラフで表示します。
- 睡眠日誌をつけると、グラフの下に同じ時間の目盛りで重ねて表示され、「感じている睡眠」と「実際の睡眠」のずれがひと目で分かります(睡眠日誌の紹介)。
- 過去30日間の記録から、睡眠時間や寝つき、夜中の目覚めの傾向を、AIが文章でまとめます(AIによる分析の紹介)。
Sleepaは、病気の診断をするアプリではありません。自分の睡眠を知り、医師と話すための材料として使ってください。最初に起動してから7日間、すべての機能を無料でお試しいただけます(無料期間が終わっても、自動で料金がかかることはありません)。
まとめ
- 不眠に悩む人は、日本の成人の約5人に1人。不眠症と診断される状態の人は、成人の6〜10%ほど
- 不眠には、一時的な不眠、精神生理性不眠、睡眠誤認、心や体の病気に伴う不眠など、いくつもの種類がある
- 睡眠の専門施設の研究では、4人に3人以上が心の状態に関連した不眠だった
- 木村は、不眠の多くは心理的なもので、根本的な原因は「不安」だと考えている
- 治療の第一歩は、自分の睡眠の状態を詳しく知ることと、自分の中にある不安の原因に向き合うこと
- いびきや呼吸の停止、気分の落ち込みが続くときなどは、早めに医療機関へ
参考:Kim K ほか「An epidemiological study of insomnia among the Japanese general population」Sleep 23(1), 2000/American Academy of Sleep Medicine「International Classification of Sleep Disorders, 3rd ed.」2014/Morin CM, Jarrin DC「Epidemiology of insomnia: prevalence, course, risk factors, and public health burden」Sleep Med Clin 17(2), 2022/Buysse DJ ほか「Clinical diagnoses in 216 insomnia patients using the International Classification of Sleep Disorders (ICSD), DSM-IV and ICD-10 categories」Sleep 17(7), 1994/Riemann D ほか「The hyperarousal model of insomnia: a review of the concept and its evidence」Sleep Med Rev 14(1), 2010/Spielman AJ ほか「A behavioral perspective on insomnia treatment」Psychiatr Clin North Am 10(4), 1987/Harvey AG「A cognitive model of insomnia」Behav Res Ther 40(8), 2002/Harvey AG, Tang NKY「(Mis)perception of sleep in insomnia: a puzzle and a resolution」Psychol Bull 138(1), 2012/Qaseem A ほか「Management of chronic insomnia disorder in adults: a clinical practice guideline from the American College of Physicians」Ann Intern Med 165(2), 2016/Riemann D ほか「The European Insomnia Guideline: an update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023」J Sleep Res 32(6), 2023
Sleepa — 睡眠を科学するアプリ
Apple Watchで計測した睡眠データを、AIによる睡眠分析や睡眠日誌と合わせて振り返ることができます。Sleepaの詳しい紹介はこちら。
※ご利用にはApple Watch(Series 6以降)とiOS 26以降のiPhoneが必要です。AIによる文章は、Apple Intelligenceに対応したiPhoneで使えます。
ご利用にあたって:本アプリは医療機器ではありません。分析結果は参考情報であり、医療診断ではありません。気になる症状がある場合や、睡眠の状態に不安がある場合は、医療機関にご相談ください。
